地域経営のパートナーとしてのワーカーズ協同組合の法制化
議員研修誌「地方議会人」(2004年2月号)掲載

協同労働法制化市民会議事務局長 島村 博


はじめに

 私ども「協同労働法制化市民会議」(2000年11月25日設立、大内力会長、略称市民会議)は議員立法による「協同労働の協同組合法」(仮称)の制定を求め立法府等に働きかけを続けている。与野党を問わず、概して反応は好意的である。市民会議の有力なメンバーであるセンター事業団を中心とする日本労働者協同組合連合会加盟団体の事業規模(2002年度決算、200億円)も着実に拡大し、ビルメン、病院・公園等の清掃などのほか高齢者介護、保育サービスといった分野で多くの自治体と提携し、又は委託を受け、地域のニーズをみたすその働き方に注目が寄せられつつある。その経営原則は、出資・労働・経営の三位一体であり、労働の仕方からすれば雇用されない働き方と一括できる。ところが、これは、日本に独特なものではない。事実はその逆だ。わが国を除くG7各国は、この種の仕組みを労働者協同組合法人、最近では社会的協同組合法人として、その権利能力を承認している。

I.欧州で注目される「働く者の協同組合」

1.背景

 構造的不況に落ち込んだ1980年代、欧州では第三システム(イタリアでは第三セクタ)、社会的経済と称される経営形態が脚光を浴び始める。そこで基軸となる経営は働く者の協同組合である(拙稿「EUの雇用戦略〜協同組合または第3システムの地位を軸として」協同の発見、協同総合研究所、2001.2)。1990年代、公共サービス分野を民間に移転し始めたアメリカではNPOセクタの育成が本格化する。わが国でも、低迷する経況にあって新規開業は「非営利」分野で顕著と伝えられ、その期待も大きい。
 洋の東西を問わないこういった動きの背後に共通の傾向が存在する。1)財政硬直化に伴う従来型の福祉国家政策の行き詰まり、2)激化する市場競争を与件とした企業の海外シフト、3)それに直接に規定された雇用の受け皿の縮減、正規常用労働の非正規化である。
 1)及び2)は、現代世界が大転換の時代にあることを充分に物語る。3)について欧米とわが国は同日には語り得ない。営利分野に属する企業の新規開業率が廃業率をカバーしえない現状だからである。だが、「非営利」分野での雇用吸収が着実に躍進している面は相似する。

2.各国での法改正〜マルチ・ステクホルダー型協同組合

 欧州でも少子高齢化はわが国と同様に進行し2015年には高齢者が25%を超える。しかし、北欧、南欧において「物質的な生産物よりも」高齢者介護、保育サービス、環境保全といった「ヒューマンな貢献を購入する」(M.Campbel,Third System & Employment and Local Development,1999)「好縁的サービス」(relational services)とでもよぶべき分野が力強く発展している点で事情が異なる。この分野の育成は、1)コミュニティの開発、経営2)地域での仕事起し、3)NPOの協同組合化といったタームで語られる。3)の事例は2001年フランス協同組合法の改正においてもみられる(Modification de la loi coopérative de 47 introduisant les Sociétés Coopératives d'Intérêt Collectif。拙稿「現代フランスの協同組合法Note」協同の発見、協同総合研究所、2001.12)。ドイツでは就労機会創出において協同組合が有するポテンシャルを生かすべく協同組合法の改正論議が浮上している(W.Blomeyer,Aller Anfang ist schwer,in:ZfgG,2001,SS.79-88)が、ライン河の南に位置する国々とは環境が異なる。一面で社会保障制度が極めて充実し、他面でキリスト教会からNPO団体への莫大な資金供与が見られるからだ。因みに、欧州のNPOは宗教法人からの寄付を欠いては立ち行かないことを付言しておく。
 こういった近年の地域再開発戦略の嚆矢は、1991年における「社会的協同組合法」と称されるイタリアでの立法である。それは、伝統的な協同組合にみられるモノタイプの組合員からなるものではなく、従事組合員の他に利用組合員、ボランタリー組合員、公共団体その他出資者を予定するマルチ・ステクホルダー型の組合であることを特色とする。
 欧州におけるこの種の協同組合の実勢は6万企業、就労者130万人に及ぶ。
 わが国でのワーカーズ協同組合 (働くものの協同組合)法の制定を求める運動には、1980年代における失業者による自発的な仕事起しに由来する自生的面があるが、欧州の経験に深く学んだものである。適当な法制度がないからだ。

II.ワーカーズ協同組合の法制化

1.協同労働の協同組合とは

 協同労働とは聞きなれない言葉であろう。労働といえば他人に雇用されて働く雇用労働が一般的で、自己の力量、決断に支えられる個人事業がときにイメージされるからである。よって私どもは協同労働に定義を与えた。積極的には、出資・労働・経営が組合員において一体となる働き方をいい、消極的には、雇われずに働き続けられる仕組である。
 この働き方は、個人が零細でも資本を持ち寄り起業することを前提とする。その政策的効果は明白である。企業が人減らし傾向を強めている現在、働くことは他人に雇用されて働くことだという常識の枷を離れたとき、働きたくとも仕事に就けない人々は、この仕組により仲間と力を併せて起業できるからだ。失業者、子育てを終えた女性、高齢者など、雇用市場にアクセスできない人々の働く意志と活力を生かす格好の起業形態として注目される所以も、ここにある。欧州では、フリーターの職業訓練の場、障害者の自立支援制度としても活用されセーフティ・ネット機能を果している。
 しかし、それには特有な形があるはずである。端的に言えば、それは、諸個人が相互の連帯を基礎として協同の力を発揮できる経営・働き方の仕組、つまり、協同組合である。この仕組がコミュニティに根ざした企業形態として急速に関心を集め、その「雇用」創出力に期待が寄せられる (厚生労働省政策統括官室「雇用創出企画会議第一次報告書」、平成15年5月)のも、故なしとはしない。ちなみに、世界ではワーカーズ・コープと称するが、与党の有力筋から「ワーカーズ協同組合」という名称を提案されている。

2.わが国における生産協同組合の特殊形態と一般的形態

 協同で働く協同組合というものもわが国では馴染みがうすい。協同組合といえば、農協、生協のように、一般の意識もその実体も購買、消費が事業的協同のあり方で、労働を協同化するものではないからだ。ところが、「消費生活協同組合」法を別として、各々の協同組合法で、例えば農協法で農事組合法人、水産業協同組合法で漁業生産協同組合法人、森林組合法で生産森林組合法人といった特殊な生産協同組合の設立が認められている。第一次産業分野に限定されるこの種の生産組合法人の他に中小企業等協同組合法に掲げられた企業組合法人というものが存在する。
 一見すると労働又は生産協同組合法人法制は完備したもののように思える。各々の特殊な生産法人は各々特有の事業(農事組合法人は農業及び附帯事業)に従事し、企業組合法人は「商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業」 (法9条の10) を行なえる。つまり、違法な事業でない限り定款に定めたいかなる事業も可能である。故に、形式的には、企業組合法人制度を労働又は生産の協同組合法人の一般的形態と呼ぶことが可能であるかに思われる。

3.企業組合法人の活用舞台

 当該制度は、その特殊な成立事情は別として、現行では就労組合員の事業資金の蓄積、経営ノウハウの拾得、労使管理の経験の蓄積といった面で世界にも稀な優れたアントレプレナーシップの制度であり、今後の活用が期待される。問題は、労働又は生産及び経営において組合員の協同の力を発揮できる仕組か否かである。
 その実体は、組合員中の従事者比率(1/2以上、同11)、従事者中の組合員比率(1/3以上、同11)からすれば雇用労働をかかえこむ営利企業であり、法人を含む出資のみの組合員の承認、従事分量配当に優先する出資配当、剰余配当上限2割等、資本結合的要素が濃厚で、協同の力を発揮できる就労、経営の仕組とは縁遠い。つまり、全体の半数を占める非組合員就労者(プラス1/4の組合員就労者)が生み出した剰余は、まず、その2割が出資配当(非課税)として組合員に配分され、次いで、1/4の組合員就労者のために労働配当(課税処分後の純剰余が源泉)される。これらは、一部の組合員に多数の勤労者が奉仕する仕組で、協同組合原則(ICA国際協同組合同盟、1995年採択の同原則)や現行法に照らしても労働者協同組合に該当せず、一昨年ILOがほぼ半世紀ぶりに採択した「協同組合勧告」によればpseudの類に属する。
 協同組合は概して非営利を建前とし、企業組合が営利法人であることは明白(法59条)である。故に企業組合は人的会社の第三の形態として位置づけられるべきである。

4.既存の生産協同組合法人及びNPO法人の問題

 総じて、企業組合を含めすべての生産法人は持分制度という民法上の組合の原則である共有制度に立脚する。故に、一方で相続加入が当然にも保証され、他方で組合にとって負債性の自己資金に他ならない出資金を除けば組合独自の財産に乏しく、債権者保護のための資本維持という法人制度に要求される契機を構造化するものではない。前者は協同組合の自由加入原則に反しないが、後者は機能的には事業体の継続的、安定的発展の阻害事情となりうる。この難点は、そのまま、「特定非営利活動促進法」でいうNPO法人にあてはまる。NPO法人は事業体であるが非経済的事業を本来の目的とし、正当な対価を得て活動する経済的事業法人に予定される法人独自の資産及びその維持の仕組をもつものではないからだ。資産維持義務があるからといって、中間法人が事業に適するかといえば、それは無理である。広義での社交を本旨とするからである。
 ところでNPO法人には商行為的営利性が認められる (法2条2ロ)。しかし、そのガバナンスは、営利を目的としない公益法人のそれに準拠し、意思決定、責任の仕組の面で対価を得て事業を継続できるものではない。NPO法人の本旨は、地域社会への奉仕を志す人が、名誉など金銭以外の満足を得る仕組にこそある。
NPOへの期待も程なくして終わる。平成12年に構想され14年より緒につき始めた公益法人改革が絡むからである。それは、事業者に直接に関連する水準で言えば、企業形態に対して中立的な税制の構築を課題(平成12年度、税調報告)とし、事業面におけるイコール・フッテイングを税制の面から担保する、つまり政策的優遇措置に止めを刺す。

III.ワーカーズ協同組合法の骨子

 法制化運動の当初、生協法の準用を国会議員から度々勧められた。その難点を指摘しておく。同法人は労働を軸とする協同組合の仕組をもたず、その認可は300名の創立組合員を要する(法55条2)。この数値は働く場をともに創ろうとする人々にとって非現実的だ。また、員外利用は原則的に禁止される(法12条3)。これでは、地域社会のニーズを発掘し、それを就労創出の機会とすることは不可能である。同法では、たとえば自治体有の公園の緑化管理は自治体の組合員化がサービス提供の前提となる。これは想定不能ではないが生協法による自治体の組合員化は空想に類する。
 私どもは、既存の生産協同組合法人、NPO法人等とは別の仕組を求めている。それは、以下の原則を組合基準の根幹とする。1)自発的な仕事おこしを協同労働により実現する(協同労働による起業)。2)働く意思のある人々が、共同で出資し、共に労働し、経営する(協同労働)。3)組合員は、働く人々からなり(組合員就労制)、働く人々が組合員となる(就労者組合員制)。同時に、目的に賛同し出資をする人々も、組合からサービスを受ける利用者も出資をすることで組合員となれる(マルチステークホルダー型組合)。4)剰余を起業支援、教育、地域社会の福祉を担う事業のために積み立てる(非営利の不分割積立金)。
 当該積立金は、与党の有力者から「協同組合の原点に帰るもの」という評価を得ている。公益性を担保するからだ。予算委員会でも坂口厚生労働大臣から協同労働は立法事実としての認知を受けた(02.02.17)。
 大転換時代、自治体のパートナーにふさわしい法人の仕組がここにこそある。

 
 (下線部は原文では傍点)

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