訳:岡安喜三郎

 ILO(International Labour Organization:国際労働機構) 

国際労働機構第89回総会(2001年6月5日_21日)開催要項より

 「協同組合の振興」《第5号議案》 

一般に認められた協同組合の原則によると、協同組合とは、組合員が共通の経済的社会的目標を達成するための手段と認識されている。

多くの国際労働基準が直接的間接的に協同組合に言及しているが、協同組合の振興に関する基準は1966年の(開発途上国)協同組合勧告(127号)だけである。127号勧告の採択以降、この基準の視野をはるかに超えた政治的・経済的・社会的変化が、世界中の協同組合の状態にさまざまな影響を及ぼしてきた。

先進工業国では、既存の協同組合事業の構造転換や協同組合の新しい形成のために、最新のマネジメント手法が必要とされてきている。そして、現在のグローバル化の中で協同組合は他の企業と競合している。

体制移行国では民間移行によって、いくつかの政府お抱え協同組合が清算される一方で、他の協同組合は本物の協同組合への転換がすすんだ。

開発途上国では、協同組合は自己雇用の機会創出、そして数百万人もの労働条件と生活条件改善に重要な役割を果たしている。同時に、政府主導でも投資家主導でもない起業分野において、本質的な基盤やサービスを利用できるようにする面でも重要な役割を果たしている。

協同組合はまた、女性のみならず、貧しい人たち、先住民族の人たちを、まともな経済生活に合流させる大きな役割を果たしてきた。今日、協同組合は、若い人たち、弱者のグループ、障害をもつ人たちにとって、職場の渡り歩きの減少、仕事の創造においてますます大きな役割を果たしている。

このような動向に鑑み、ILO理事会は、新しい普遍的で適切な基準とは、協同組合がその自助の潜在力をより完全に開発するものであること、また、失業や社会的排除など、当面する様々な社会経済的問題に本気で取り掛かり、グローバル市場経済の中での競争能力を高めるものであることを認識した。

かくしてILO第274回理事会は、国際労働機構第89回総会の議題に協同組合振興の問題を含めることを決定した(1999年3月)。この議案は総会議事規則第39条にしたがって、2回に渡る審議(89回総会は第1回目)として扱われる。

ILO事務局は第1次討議用として2つのレポートを準備した。最初のレポート(「協同組合の振興」レポートV(第1分冊)、ILC第89回総会に向けて)には各事例に沿ったアンケートを付け、回答(賛成・反対とその理由)を求めた。これらの回答は第2のレポート(V(第2分冊))に集約された、同時に第2分冊には、国際労働総会が考察すべき主要ポイントが提示されている。

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 国際労働機構第89回総会2001 レポートV(第2分冊) 

「協同組合の振興」(抄)

 はじめに 

 1999年3月に開かれたILO第274回理事会は、「協同組合の振興」を2001年の第89回国際労働総会の議題にすることを決定した。 

 同総会の議事進行規則によって、同議題は2回審議として扱われ、第89回総会はその第1回審議が行われる。ILO事務局は、この問題の第1回審議の基礎を提供するため、予備レポート(レポートV(第1分冊))を書き上げた。そのレポートには、この問題の説き起こし、開発途上国、体制移行国、先進工業国における協同組合環境の変化の考察、様々な国における法や実践に基づいた協同組合の振興のための必要条件の分析等が含まれている。レポートにはアンケートが付けられ、遅くとも2000年6月までに回答がILO事務局に届くようILO加盟国政府に伝えられた。 

 本レポートを書き上げた時点で、95の加入国政府から回答があり、内60ヶ国は使用者団体、労働者団体と相談して書かれており、いくつかは各組織の意見が付けられていた(いずれも日本含む;訳者註)。他の政府の回答には、使用者側、労働者側の所見を言及することなくそのまま送付されたのもある。ある場合には、使用者側、労働者側に直接回答してもらったものもある。なお、ことの性格から、多くの国の協同組合全国組織からも回答をもらった。 

 このレポートは受けとった回答に基づいて書き上げられており、その大意は短い解説ともに次節に記述してある。結論案は本レポートの最後にある。 

 回答と解説 

 本節は第1次レポートについていたアンケートへの回答の大意である。

 ベルギー。  グローバル化の状況の中で、協同組合の発展には避けることのできないディレンマが浮かび上がってくるであろう。すなわち、協同組合はどのようにして必要とされる規模に到達するのであろうか、また、魅力の一部である本質的な性格を保持しながらどのようにして必要な手段を獲得するのであろうか? グローバル化によって我々はますますより広い見地で考えざるを得ない一方で、相反する動向の同時展開をも考慮しなければならない。それは例えば、社会的排除と戦いながら雇用を促進しようと努力している、地方の活動や草の根活動の重要性がたびたび強調されることに見ることができる。これは協同組合の活動を奨励する分野である。しかしながら、この社会的役割、特にその第一義的目的が利益目的でないとの定義が与えられた社会的役割を満たすためには、協同組合は行政当局からの支援が必要である。これは商業ベースの企業と協同組合(および他の類似の行為者)との公正な関係を見つけ出すこと、そして後者にその活動の発展手段を用立てることを意味している。ここに、国家そして分権化された行政当局の新しい役割の輪郭が明瞭に示される必要性がある。それゆえ、協同組合に関する討議は、新しい社会契約の定義に関連して、当面のグローバルな考え方に寄与するであろう。 

 全国労働評議会(CNT)  :CNTは、レポートがILO第127号勧告の見直しを提案していることに注目している。提案は2つの目的をもっている。すなわち、開発途上国において1966年以降起きてきた変化(開発の概念、協同組合の役割)に勧告を適応させること、さらに、見直しされた基準を、体制移行国や先進工業国(そこでは、ILOによれば協同組合は新しい役割を持っている)に拡大することである。協同組合の概念は、広範な範囲の状況をカバーする。状況は問題となっている国ごとに違いがあり(そしてこれがレポートのハイライトであるが)、開発における協同組合の役割は、開発途上国であるのか、体制移行国であるのか、先進工業国であるのかによって多様である。127号勧告を可能な限り最新のものにすることに関連してCNTは、国際レベルで行われるこの討議が、協同組合形態を開発の必須構成要素としている国々のための道具であるという重要性をいささかも曖昧にしてはならないと信ずる。また、CNTはアンケートで明らかになった諸目的を重要なものと考え、全面的に支持する。しかしながら、CNTは、協同組合が目的を達成するための法的機構だけを必要としているわけではないと考える。目的には、達成する手段としての機構よりももっと重要性を与えられるべきである。 

 クロアチア。  最も重要なことは、今日の競争環境の中で、協同組合を振興し市場に参加できるようにする全国的政策を定式化することである。このような政策の中で、政府が市場での全ての行為者に平等の待遇を保証する形式が設定されるべきである。例えば、協同組合への信用供与を容易にする方策は、当面の国際基準の下で加入国の政策に含まれるべきだが、差別を惹き起こすかも知れない。 

 フィンランド。  特に地域経営に関連して、協同組合モデルは経済発展の場面において、開発途上国にとっての良好な基盤を提供する。きつい競争の状況に中で、限られた会社の境界はすぐにでもこの範囲に到達するであろう。協同組合モデルは、市民社会の組織形態として、より強力に発展させることのできるものである。協同組合モデルは、市民社会の伝統的組織と比較して多くの優位性を持っている。ILOレポートは、協同組合活動における国家の役割をはっきり示している。国家は、社会制度の機能の発展ないし最新化に対して概括的な責任を持っている。これはまた、協同組合組織形態にも当てはまる。しかしながら、協同組合組織はいかなる特別の地位も持っていない。一般に、協同組合活動の規制は、他の事業活動体との平等性に基づくべきである。これはまた。協同組合に従事する人たちの最短雇用期間の場合にもあてはまる。国家は、協同組合の役目を促進させ、組織のこの形態を社会的セクターに拡大するような好ましい環境を整備しなければならない。福祉国家で優位とされるサービスや社会給付システムは、雇用されているのかいないのかのギャップが激しい。こんな便宜的理由で、サービスや社会給付の利用は、申込者の位置が「どちらか」に決まるという条件に拘束される。長期失業者や身体障害者のような、労働市場で弱い立場のグループは結果として損害をこうむると言っても差し支えない。たびたび補助金と賃金の組み合わせの相違が、職を探すための当面の解決策を必要とする。助成雇用と社会的企業には、現存する給付とサービスのシステムのギャップを埋めること、もっとも傷つきやすい社会グループの位置を改善することの必要性が生まれている。有望なのは、新しい企業モデルが、伝統的な事業活動の本来適合しない第3セクター分野で雇用を強化するであろうということである。非営利活動の問題は、協同組合活動において、また社会的事業活動において基本的指針を制定することと思われる。非営利活動は本来社会的保健的介護に適合すると思われている。ILO勧告および他の国際組織との協力は、雇用促進への全国的努力を助けるのに適当なものである。自らのシステムの発展は比較による研究から恩恵を受けることができる。用語上の調査は究極的に、よりよき規則の恩恵を創り出すことになろう。 

 フランス。労働総同盟・労働者の力(CGT-FO) :社会的経済は、経済と社会との関係をビジョンの共有で調和させる。そのビジョンとは、協同組合などの特別の組織を通じて、資本よりも人間に優先権を与えることである。世界中の協同組合は1990年代に大きな挑戦に直面しなければならなかった。そして世界中至るところの人々の生活に影響を及ぼす根深い変化(急速な人口増加、環境に関して強まる圧力、少数者の手の内に集中する経済力、貧困循環の悪化、民族抗争)の中で、来たるべき10年間に、協同組合の強化が期待されていると言えよう。政府が協同組合の特徴や独自性、こころざしを重視しながら、その役割の促進に努力すべきことは明確に認識されている。同時に政府は、協同組合の運営に干渉すべきではない。協同組合運動は社会的経済の不可欠な要素として労働運動に密接に関係している。この精神によって我々は、協同組合運動が持つ価値をもって協同組合を我々労働組合運動の本質的なパートナーと確信できる。各々の役割は何の曖昧さもなく明確に作り上げられた。地域的、全国的、国際的レベルでの経済的社会的発展において立派に一人前になったものとして、協同組合はその可能性や願いにふさわしい法的制度的枠組みを受けるに足る価値がある。待遇の平等性と自由な競争は、結果として偏りのない政策の実施となるべきであるが、それでもなおその政策は協同組合の特別の性格と価値を尊重すべきである。協同組合は企業家精神の促進と富の創出によって経済生活や市民社会において果たすべき建設的役割を持っている。このことを否定するものは何もない。ガバナンス(企業統治能力)----協同組合運動の基礎----はその成功の鍵となる技法である。しかし訓練に更に多くの投資が必要である。ILOは、その構成がそうなので、協同組合運動の発展に自らが貢献する。 

 協同組合連合会全国協議会(GNC)  :「私的セクター」と「社会的経済」との区別を基礎にして、フランスの協同組合は私的セクターに属さないと結論づけることは正しくない。協同組合は私的セクターではあるが、社会的経済の重要な部分であると主張することはできる。協同組合は資本主義的企業と異なり、個々人の積極的関与を基礎にして、民主性、透明性、参加型というマネジメント形態を実践している。ここに、 non-profit組織と not-for-profit組織との区別は興味あるもので、それは英語の術語  “  not-for-profit ”  の一般理解に基づいている。ここでは若干の追加解明が必要かも知れない。というのは、フランス語の “  san but lucratif (営利目的に非ず)という概念は何の利益も実現しない組織のために用いられる。これは一般に剰余を生み出し、出資金の利子を支払うことになる協同組合に対しては言わない。また、分かち持った資本(フランス語で「社会的資本」)と出資者の公平性とを区別しておくことは有益であろう。というのは、発展と継続を世代から世代へと可能にする不分割積立金を作り上げることが協同組合の特質であるからである。他の革新的な資本増強メカニズムを無視することなく、また出資金に対する利子制限の原則(1995年ICA大会で再確認)を考慮して、立法者は、協同組合発展の促進手段として、不分割積立金の系統的な形成を奨励すべきである。 

 日本。  協同組合は、社会的および経済的発展の各段階で様々な役割を果たすことができること、さらに127号勧告採択から40年以上が経っていることに鑑み、変化の時代に適応するための勧告の見直しを妥当とするものである。 

 スイス。  スイス雇用者連合(UPS):レポートが示しているように、協同組合振興の問題は先ずもって開発途上国および体制移行国に関係している。スイスの場合、この分野での法的枠組みは既に存在している。したがって、この分野で如何なる新しい基準を採用することも、スイスに関する限りは、理由が見当たらない。 

(訳者注:原文にはこの後、各項目ごとに回答を肯定、否定、他の3つに区分けし、ILO事務局の所見が付いている。ここでは総合回答だけを全訳し、別表で各項目ごとの日本の対応、各国の賛成・反対を列挙した) 

 (訳者注:以下、個別設問ごとの回答とその理由は別表に集約)