2018年は、サラリーマンにとって不幸なニュースが多く駆け巡りましたよね?

財務省が2018年4月11日に、厚生年金保険から支給される老齢年金の支給開始年齢を、原則65歳から68歳に引き上げる案を提出しました。

当然まだ議論が始まったばかりなので、何も決定されたわけではありませんが、遂に来たかという感じですね。正直、過去にも徐々に年齢は引き上げられているので、今後もこの流れは止まることはないと私は考えています。(皆さんも同じ意見だと思います。)

やはり皆一様に考えるのが、「年金が支給されるまでの空白期間の収入源をどうするべきなのか?」という心配です。国家公務員や高給取りのサラリーマンはこのような心配をする必要がないかもしれませんが、薄給の我々にとっては死活問題です。

年金だけではまともに暮らせなくなりつつある中で、豊かで安定した老後を迎えるためには何歳になっても「稼ぐ力」が必要となる。その場合、独立して事業を始める「起業」も有力な選択肢の一つだ。『50代からの「稼ぐ力」』を上梓した経営コンサルタントの大前研一氏が、定年後に始める「シニア起業」のポイントを解説する。

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実は「起業」は決して難しいことではない。年齢も関係ない。シニア世代であろうと、起業のチャンスはいくらでも転がっている。

ただし、シニアが起業する場合、注意してほしい点がある。

一つは、複数の他人が絡んだ仕事をしないということだ。自分だけでできる、あるいは家族や自分の親しい友人1人を加えればできる、という仕事に絞る必要がある。これはお金もそうだ。借金をしてまでやってはいけない。あくまでも自己資金の範囲で始めるべきである。

たとえば「おいしい地鶏」を売りにレストランを始めるとしよう。そうすると、地鶏を優先的に卸してくれる養鶏業者と契約する必要がある。果たしてこの養鶏業者が、一定のレベル、一定の量の地鶏を卸し続けてくれるかどうか。複数の他人が介在するとはそういうことで、ここにリスクが発生する。関わった人間の数だけ、リスクが大きくなるのだ。また、仮に成功を収めた場合でも、大手企業が参入してきてやり方を真似られたら、太刀打ちできない。

体力の問題もある。20~30代ならば、徹夜もいとわないだろう。何日か寝ずに働いたとしても、何とかなる。マッキンゼー・アンド・カンパニーの後輩の南場智子氏は、37歳の時にDeNAを起業した。最初の頃はオフィスに寝袋を持ち込み、会社に泊まり込んで働いていたそうだ。1日24時間を会社のために捧げたのである。

だが、これは30代だから可能だったことであり、シニアの場合はそうはいかない。同じように働いたら、体を壊して入院してしまうかもしれない。自分は1日何時間働けるのか。12時間なのか、それとも8時間なのか。無理しないで働くことができる時間を自分で設定し、それを維持するようにしなければならない。

 いきなり会社をゼロから立ち上げようとするのも、やめたほうがよい。可能性があるとしたら、自分自身がIT技術に精通している場合のみで、スマホやフリーミアム(基本的な機能は無料で使え、さらに高度な機能などを利用する際に課金される製品やサービス)のツールを駆使して、社長1人で何でもできるならかまわない。だが「そういうIT関係は若い人に任せて……」と思っているようならダメだ。仮にITに精通した若手がいたとしても、そんな人材がその人の会社に来てくれる可能性はゼロに等しい。

ホームページさえ立ち上げれば客が集まってくると思っているかもしれないが、何千何万というWebサイトの中から、サイバー空間の住人があなたのホームページを選んでくれるようにするためには、それ相応のIT知識が必要となる。これは「SEO(Search Engine Optimization)」という技術で、グーグルやヤフーの検索結果で自社サイトがより多く表示されるために検索エンジンを最適化するWebマーケティングの一つだ。しかし、SEOをパーフェクトに使いこなせる人間はほんの一握りで、まず無理だと思ったほうがよい。

SEOの専門会社も数多くあるが、eコマースの専門家もピンキリで、高い報酬を払ったにもかかわらず効果がない、ということはザラなのだ。

最も可能性が高いのは、従来から付き合いのある会社や人と手を組み、資本金を出し合ってやる方法だ。自分自身はフルタイムの社長として責任を持ち、パートナーに人と金を出してもらうのだ。その代わり、人一倍、汗をかかねばならない。

◆「より良いもの」で勝負するな

では、何をやるか? 何をやるにせよ、「ドゥ・モア・ベター」(より良い物を作る・売る)の発想だけは、絶対にしてはならない。

日本の企業は長らく、この考えに取り憑かれている。従来の延長線上で競合他社より「もっと多く、もっと良く」と考え、そこに目標を設定してしまうのだ。

日本の家電メーカーが、こぞって業績不振に陥った理由がそこにある。冷蔵庫の容量をもっと大きく、消費電力をもっと小さく……と競ったところで、それは程度の問題でしかない。たしかに高度成長期は「ベター」になった者が勝ってきたという歴史があるが、その競争は必ず壁に突き当たる。

現に、1993年創業という比較的若いイギリスの電気機器メーカー「ダイソン」が、全く新しい発想のサイクロン掃除機やドライヤーを市場に投入したら、日本のメーカーは歯が立たなくなってしまった。

たとえば、2009年秋に発売された扇風機「エアマルチプライアー(AirMultiplier)」。羽根を持たない扇風機のスタイルに、誰もが度肝を抜かれた。「ドゥ・モア・ベター」の発想ではないところでダイソンは勝負しているのだ。創業者のジェームズ・ダイソン氏は「人と違うことをしたい」と常々口にしているが、これこそアンチ「ドゥ・モア・ベター」の発想だ。ダイソンは20億ポンド(約2900億円)を投資し、400人以上の専門チームを結成してEV(電気自動車)の開発に参入したが、これも今までの原理とは全く違うところで勝負してくるのではないか。

 ダイソンのこれまでの成功が物語っているのは、「起業成功のカギはアイデアである」ということだ。

「ドゥ・モア・ベター」の考え方の弊害は、価格設定にも現れる。「他社よりも価格を安く」というのは、日本企業の悪しき考え方だ。ここでも、「ドゥ・モア・ベター」で発想してしまっている。

せっかく起業した人が「ドゥ・モア・ベター」の発想から抜け出せない場合、どうなるか。同じような商品を他社より安くするためには、経費を節減するか、自分の給料を削るしかない。経費を節減するといっても大工場を展開する大手に敵うわけがなく、結局、自分の懐を痛めるしかない。

これでは損失を抱えるだけで、何のための起業か、ということにもなりかねない。それならば何もせずに虎の子の貯金を抱えて静かにしていたほうがマシ、ということになってしまう。だが、貯金を抱え込んだところで今の超低金利では目減りしていくだけだから、増えるのは将来に対する不安ばかりだ。

※大前研一・著『50代からの「稼ぐ力」』(小学館刊)より一部抜粋

【プロフィール】おおまえ・けんいち/1943年福岡県生まれ。1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年退社。以後、世界の大企業やアジア・太平洋における国家レベルのアドバイザーとして幅広く活躍。現在、ビジネス・ブレークスルー(BBT)代表取締役会長、BBT大学学長などを務め、日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。

2019年1月28日 NEWポストセブンより引用

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